*お断り
本作品は平成14年11月から平成15年4月に掲載されたものです。
レース内容、社会情勢など、当時のままにしてあります。
登場人物
[父っつあん] 大穴を追求する馬券士
[イノちゃん ] 歌舞伎町の遊び人。明美ちゃんの借金返済に奔走している。最近、生前戒名で儲けようと、僧侶の修行をしている。
[明美ちゃん] そーぷ嬢 。理由はやや疑わしいが病気の母親と弟の学費の為に500万の借金を負ってしまった。
[白髭殿下] やんごとなき身分と噂される、グルーフ゜の中心人物。
[DBK氏] 元大手銀行員。最近めきめき頭角を現し、めざましい活躍をしている。
[田口氏 ] 馬券ブレイク編集者。父っつあんの担当。礼儀正しいが原稿に関しては鬼。
[Oちゃん] 馬券ブレイク編集者。同誌「万券100本ノック」の企画でフラフラのダウン寸前だったが、突如馬券が当りだした。無類の合コン好き。
[フ゜リンセス イ・ケマシ(シマケイ)]
競馬最強の法則編集者。180cmを越える長身。殿下に見込まれて最近グループ入りした。
異様である、余りに場違いである。歌舞伎町さくら通りのルノアールで待ち合わせたのは大失敗だった。初出勤のホステスやその連れやら、おまけに店員までもが、妖怪に出会ったようなギョッとした顔で見つめる。なにがって、僧侶姿のイノちゃんがこんな所に座っているだけで十分面妖なのに、その向かいには、今にも泣き出しそうな風情で、尼僧姿のO嬢が身を縮めている。一体何が起こっているのか見た目には想像のつけようがないが、とにかく異様で且つ興味深々な光景である。当のイノちゃんも、う〜んと唸ったきり、じっと彼女を見つめている。
「とにかく、明けましておめでとう」
「あ、ああ、おめでとう。そのう・・、彼女が例の助っ人かい?」
「そうだ、尼さんだけどな」
「ふう〜ん、何でもいいけど、父っつあんに頼むと、全く突拍子もない人間を連れて来るよな。この間のイ・ケマシもそうだけど、ほとほと感心するよ」
「そうか、人を見る目があるって事だろう」
「全然そういう意味じゃないんだけどな。ま、いいや。ところで、暮れの大井はどうだったのよ」
それがね、イノちゃん・・・
12月27日から31日迄、5日間ぶっ通しでフルに戦うとさすがに最後には心眼というか、神の如き心境になってレースが見えてくるもんだね。とにかく固かった開催で、初日12Rの馬単680倍を穴馬2着付けで買って逃してからは、かすりもしない。ふらふらになって迎えた最終日の11R。牝馬に乗った御神本が、ぐりぐりの断然人気。確かにタイムやラップは抜群なんだが、有馬のファインモーションと一緒。フケに入っている冬から春にかけての牝馬の人気馬は黙って消しだ。断然の一番人気が消えるのだから大荒れは当然だが穴の軸馬が見当たらない。データーの2番手が的場文の馬で、珍しく3番人気。中央の武豊みたいなもんだからほとんど1,2番人気なんだ。荒れるとすれば、この的場文が3着、悪くても2着、とまでは推理した。1着では大荒れにはならないからな。今考えると、とにかく有り金はたいて3,2着付けで3連単の総流しをかければよかったんだがなぁ。或は馬単2着付けで総流しか・・そうすれば500倍はとれたんだ。結果は2着で3連単は215万もつけた。それまで、そよとも風が吹かない固さだったから、浦和の場外とはいえ、さすがに騒然としたさ。父っつあんも頭にカーッと血が昇ったね。さて、このレースを見送ってしまっては、もう後がない。本当のどん詰まりの12R。気を持ち直し、とにかく荒れるとすればと、じっと心眼を凝らしていると、これしかいないと見えてきた軸馬が5番人気10.2倍13番のスピードアレックス。そして穴馬は前日の検討段階で決まっていて6番人気9番11.8倍のスズノミサイル。この馬は前走不良馬場の1着だっただけにデータがちょっと信用できなくて3連単の1着には買えなかった。2,3着付けにしちゃったんだよな。明美ちゃんの馬単買いは軸馬13番の1着付けで5点流し。2着付けはこのケ−スだけという事で9−13の1点買い。これが、きれいに決まった。
12月31日 大井12R 馬単9→13
結果 9−13−14 馬複167.4倍 馬単412.8倍
3連複193.4倍 3連単176.710倍
え〜と、前回の資金が2万5180円で今開催の馬券投資が全部で1万9400円。このレースで20万6400円の収入だから・・・
お〜い、ねえちゃん電卓貸してくれ。おお・・・何と21万2180円になったぞ。どんなもんだい。おっと、立替の1万円は返して貰うから資金は20万2180円だ。一気に増えたね。500万まで、あとたったの478万7820円だよ、イノちゃん。
それで彼女の事だが、まず師匠からのこの手紙を読んでくれ。
拝啓、新春の候、父っつあんにおかれましては、馬券益々好調の事
とお慶び申し上げます。
さて、お申し越しのO嬢の件ですが、本業のライターとしてはいささかの成長を得、そこそこの仕事をこなす態にはなりましたが、肝心な不肖竹内一門の命題たる、ギャンブリング・ライター、すなわち、賭けながら書くという在り様に関しては、多大なる危惧を抱いております。春先の好調はいずくんぞ、近況の不振には目に余るものがあり、師たる者として、いかにこれを立ち直らせるか思い悩んでおりました。そもそも彼女の出自は卑しからざるものがあり、これが逆に災いし、いざ決断の場面において怯懦の念を覚え、髪一重の見切をなし一歩の踏み込み能わざる事多し。大井の馬券師山本氏にご指導願うも未だその効能現さず。奈辺の事情については競馬最強の法則記事をご照覧あれ。このような折に貴台よりのお申し出でに接し、これぞ天の導きと感じ入る次第であります。かくなるうえは、御グループにて名をなさぬ限りは帰参許すまじの覚悟で剃髪せしめ、名を超弱院と改め送り出す次第であります。勿論身柄をお預けする以上、後は煮て喰らおうが、お代官様の帯ほどきでグルグルっと廻そうが、勝手後免。いかなる仕儀になろうと恨むまじ、と因果を含めております。向こう三年の間、あらゆるギャンブルを封じ、貴グループで修羅場を経験させる事により見切りを会得させたいとの親心。何卒事情をご推察の上、よしなにお取り計らいの程をお願い申し上げます。
敬 具
フリーライター 武内 一平
「何だか難しいねぇ。要するに彼女を鍛えてくれという事か」
「そうだ。イノちゃん、しばらく彼女を預かって教育をしてくれないか」
「よし、分かった。取り敢えず立川競輪の記念だな」
「おい、おい、それはまずいよ、ギャンブルは封印だぞ」
「何言ってるんだ、鉄火場の最中にあってビクともしない精神力を養うってのが目的なんだろう。こりゃ、絶好の機会じゃないか」
「うーんそうかな、まあどうせ暇さえあれば競輪に行っちゃうんだから仕様がないか。その間彼女を放っておけないしな。ところで2人供その格好でいくのか?目立ちすぎるぞ」
「この格好がいいんだよ。俺に考えがある。ほら、昔競馬場のまわりにいただろう。目隠しをして振ったサイコロの目を当てる奴。超能力で結果が分かるとお客をびっくりさせて、予想を売りつけるの。あれだよ」
「ああ確かにいたな、最近見ないけど」
「あれを彼女が目隠しをした尼さんの格好でやれば、売れるぞ。携帯をバイブにして懐に忍ばせておいて、サイコロの目は携帯に送信するのさ。ここぞという時に立て膝をしてチラッと太股を見せてやれば、女っ気の少ない競輪の客なんかいちころさ!」
「ははあ、それはいいや。ところで、携帯に送信する役が必要だな。プリンセスは背が高くて目立ちすぎるしな、そうだ、Oちゃんがいいな」
「君、暮れのラジオ短波と有馬記念をなで斬りにして、返す刀で5日の初日も3連複万券を当てて絶好調らしいね」
「はい、もう金がポケットで唸ってます。競馬場には落ちてる金を拾いに行く気分ですよ」
「むむ、それは羨ましい。父っつあんの理論が大分参考になったろう」
「いや、全然・・。あれはややこしくて読む気はしないですよ。大体僕はブレイクの指数Xしか信じませんから」
そうだ、こいつは万券100本ノックの企画で指数Xしか買えないんだった。
「うむ。それでは・・随分ごちそうしたよな」
「はあ?あ、確か新橋の激安フグ店で一回」
「君、激安にそんなに力を入れなくてもいいだろ」
「でもあれは、暮れに実家から高級トラフグを送って返しましたけど」
「おお、そうだった。あれは実にうまかった。・・こほん。そういう事じゃなくて、とにかく君は父っつあんを尊敬してるだろう」
「いいえ、全然。何の義理もありませんし」
こりゃ埒があかん。田口氏に電話しよう。
「ああもしもし、父っつあんです。明けましておめでとうございます。実はちょっと訳があってOちゃんを借りたいんですが」
「ちょっ、ちょっと待って下さい、冗談じゃないですよ。ただでさえ人手が足りないのに、休み明けで仕事が山積なんですよ。若手を勝手に使わないでください」
「はいはい、分かりました。それではおっしゃるとおりに・・・Oちゃん、田口氏が存分に父っつあんに協力するようにとの仰せだ」
「はあ、上司の命令じゃ仕様がないですね」
「そうだ、いい覚悟だ。君は今から尼僧O嬢超弱院の送信係に任命する」
「は?何ですか、それ」
「辞令だよ。人事命令だ。Oちゃんの人事、お〜人事だ」